2-1【所有建物の損壊に伴う建築業者に対する損害賠償請求】
私の所有している家が地震で倒壊してしまいました。周りの家は倒壊していないので建築に問題があったのではないかと思っています。建築業者に対して損害賠償請求できますか。
仙台地判平4・4・8判時1446・98は、昭和53年6月12日発生の宮城沖地震において、宅地造成工事に関する事件で、「本件宅地の耐震性の点からの瑕疵の存否は、従来発生した地震の回数、頻度、規模、程度のほか、時代ごとに法令上要求される地上地下構築物の所在場所、地質、地形、強度等の諸要素を考慮し、一般常識的見地から少なくとも震度5程度の地震に対して安全性の有無を基準として判断するのが相当である」としていますが、この地震発生当時、仙台市近郊において過去に発生した地震では震度6以上の例がありませんでした(宮城県沖地震も公表震度5でしたが、その後の調査により全般的に震度6とみなすのが妥当とされました)。
気象庁が発表する震度は、地表や低層建物の1階に設置した震度計による観測値にすぎず、揺れの大きさや周期、継続時間、地盤の状況等により被害の程度は異なる上、震度6を超える地震をいくつも経験し、建築基準法等の改正により耐震基準が強化されている現在においても、震度5程度を基準として安全性の有無を検討してよいかどうか疑問があるところです。ただ、少なくと も周りの家は倒壊していないところからすると、当該家屋は、震度5程度の地震(棚の食器や本が落ち、固定していない家具が移動したり倒れる等の被害とされています)に耐えられない一般に要求される程度の安全性を持っておらず、瑕疵の存在を理由に建築業者に対する損害賠償請求が認められる可能性があります。また、建築設計者に対する損� �賠償も考えられます。
なお、ブロック塀等が倒壊した場合の工作物責任における「瑕疵」については、Q1-1を参照してください。また阪神・淡路大震災で賃貸マンションの1階部分が倒壊し、1階部分の賃借人が死亡した事故で、損害賠償額の算定にあたり、自然力の寄与度を5割認め、5割の限度で土地工作物責任を認めた裁判例(神戸地判平11・9・20判時1716・105)もありますので併せて参照してください。
民法の瑕疵担保責任の除斥期間は、普通工作物の引渡し後5年、石造・コンクリート造・金属等の工作物が10年とされ、注文者は滅失又は損傷から1年以内に損害賠償請求をしなければならないとされています(民法638条)。もっとも、請負契約で、木造家屋は引渡し後1年、コンクリート等の建物は2年、請負人に重過失ある瑕疵は、1年を5年、2年を10年とするとされているケースが多いと思われます。
また、平成12年4月1日以降の新築住宅の売買契約、請負契約には、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が適用されます。瑕疵担保責任が引渡し後10年に延長され、取得者に不利な特約(期間の短縮等)を無効とし、損害賠償請求、瑕疵修補請求、売買契約で修補不能な場合には契約解除が認められています(品確法94条、95条)。品確法に基づく瑕疵担保責任については、Q2-4を参照してください。
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2-2【契約と異なる建築工事と建物の瑕疵】
今回の震災によって自宅マンションにひび割れ等が入ったため、家屋調査をしてもらったところ、当初の契約の内容と異なる色々な不具合があったことが判明しました。そこで、建物の売主や建築業者に瑕疵担保責任を追及するための「瑕疵」とは、どのようなものをいうのでしょうか。またどのように判断されるのでしょうか。「瑕疵」の有無を判断するには、どのような調査方法があるのでしょうか。
売買契約における「瑕疵」とは、売買の目的物がその種類のものとして通常有すべき品質・性能、あるいは契約上予定した性質を欠いていることをいいます。また、請負契約における「瑕疵」とは、完成された仕事が契約に定められたとおりに施行されておらず、使用価値や交換価値が減少したり、当事者が特に求めた点を欠くなど不完全な部分をもっていることをいいます。
瑕疵の判断については、従来は、当該目的物が通常備える品質・性能を欠く客観的な瑕疵を中心に捉えられてきました。しかし、最高裁判所(最判平15・10・10判時1840・18)は、「本件事実関係によれば、太い鉄骨を使用する約定をしたことは契約の重要な内容になっていたものというべきであり、この約定に違反して施行された工事には瑕疵があるというべきである」としており、たとえ、建築基準法の基準を満たしていても目的物が契約に定められた性質を具備しない場合にも、請負業者の責任を認めているので、瑕疵担保責任の適用の範囲は拡大されているようです。よって、契約と異なる工事が施工されていた場合には、建築業者に対する瑕疵担保責任が認められる可能性があります。また、売買契約の内容と� �なる事実が判明し、その結果使用価値や交換価値を減じる事情が認められるのであれば、売主に対する瑕疵担保責任も認められる余地があります。
上記瑕疵の判断基準に用いる資料としては、契約内容が契約書等(契約書、設計図書、品確法による住宅性能評価書)に明確に記載されていれば、その契約書によって瑕疵を判断します。契約書等で統合不具合の原因に関する品質や性能が不明確な場合は、何らかの客観的外部的基準(建築基準法等の法令、住宅金融公庫の住宅工事共通仕様書,日本建築学界の各種構造設計基準)により契約内容を合理的に意思解釈して補完する必要があります。
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2-3【耐震強度偽装時の責任追及】
自宅の鉄筋コンクリート造りのマンションが今回の震災で半壊してしまいました。周辺のマンションは半壊するほどの被害を受けていなかったため、建築士に自宅マンションの調査をしてもらったところ、耐震強度に偽装があることがわかりました。このような場合、誰に対してどのような請求ができますでしょうか。また、紛争を解決するためにはどのような手続をとればよいのでしょうか。
耐震性及び契約内容に違反する点で、マンションの売主に対しては瑕疵担保責任・不法行為責任を追及できます(Q2-1、Q2-2を参照してください)。また、構造設計者及び建設会社に対しては不法行為責任を追及できます。
その他、建築確認事務を行った指定確認検査機関に対する不法行為責任や、建築確認事務を行った機関(建築主事)が帰属する地方公共団体に対する国家賠償責任の追及が考えられます。半田市のビジネルホテル耐震強度偽装損害賠償請求事件の1審判決(名古屋地判平21・2・24判時2042・33)は、県に対し国家賠償責任を認めましたが、その控訴審の名古屋高判平22・10・29判時2102・24は、県の責任を否定しました。建築基準関係規定に直接定める項目であれば、建築主事は職務上必要な注意義務をもって審査すべきであるが、右規定が直接定めない事項については、審査は原則不要であり、それらに関連して右規定に定める審査事項違反となるような重大な影響がもたらされることが明らかな場合にお� �て、故意又は重過失によって看過したときに注意義務違反となると判断し、結論として建築主事の注意義務違反を認めなかったものです。自治体又は指定確認検査機関の責任を否定した裁判例のほうが多いと指摘されていますが、責任を否定する理論構成は一様ではありません。
紛争を解決するための手続としては、当事者同士の示談交渉がありますが、交渉での話合いが困難であれば、第三者を介する弁護士会等の斡旋・仲裁、裁判所の調停や裁判等の法的手続を取ることができます。建築士に見てもらって耐震偽装がわかったということですが、今後、示談交渉等を始めるにあたって、建築物の構造問題の専門の建築士にマンションの調査及び構造計算のチェック等をしてもらって、耐震偽装がマンション半壊の原因であるかどうかを検証する必要があります。
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2-4【住宅品質確保促進法上の瑕疵担保責任】
私は、平成12年6月に自宅として新築建物の売買契約と請負契約を締結しました。平成12年4月1日以降に契約した場合、それより前に契約した場合と比べて、瑕疵担保責任に関して違いがあると聞いたのですが、どのように違うのでしょうか。
平成12年4月1日以降の新築住宅の売買契約、請負契約については、民法の瑕疵担保の特例として「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が適用されます。
「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」の重要ポイントは、
(1) 瑕疵担保の権利行使期間-引渡し後10年で、かつ、請負人に対しては滅失・毀損時から1年以内、売主に対しては瑕疵を知った時から1年以内。
(2) 取得者に不利な特約は無効
(3) 売買契約について瑕疵修補請求ができる。
ただし、瑕疵の立証責任は取得者で、「隠れた瑕疵」のみに限られ、中古物件を除きます。また、建築請負契約について解除は認められません。
(4) 担保されるのは、「構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの」の瑕疵に限られます。
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2-5【隣家に対する損害賠償責任】
隣家が私の家に倒れかかってきています。このままでは私の持ち家も壊れてしまいそうです。隣人が行方不明なのですが、隣家を勝手に壊してしまっても良いのでしょうか。
閉じエージェントは何をするのでしょうか?
隣人が、隣家の所有権を保有しているので、原則は、所有者の承諾なく隣家の解体を行うという自力救済は禁止され、不法行為に基づく損害賠償責任や建造物損壊罪(刑法260条、法定刑懲役5年以下)という犯罪にも該当します。
もっとも、隣家が倒れかかり、自分の家まで壊れそうな場合に隣家を壊すことは、緊急避難等として免責される可能性があります。刑法上の緊急避難は、(1)自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難が存在し、(2)これを避けるためやむを得ずした行為は、(3)侵害によって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、免責するというものです(刑法37条)。民法上も緊急避難等が成立する場合には不法行為責任を負わない旨規定されています(民法720条)。
また、最判昭40・12・7民集19・9・2101も、自力救済について、「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要な限度を超えない範囲内で、例外的に許される」としています。
緊急避難等として免責され、損害賠償責任(不法行為責任)を負わないか、建造物損壊罪とならないかは、上記の要件や特別の事情の存否の有無を、個別に判断することになります。
但し、損壊対象物に財産的価値がなくなっている場合には、損害ないし違法性がないとして、不法行為責任等を負わないケースもあると思われます。
阪神・淡路大震災においては、廃棄物処理法の特例として、市町村の事業として損壊した家屋、事業所等の解体・撤去費用を行い、その費用の2分の1を国が補助するという特別措置が講じられ、所有者からの申し出、承諾に基づいて行われました。東日本大震災においても、平成23年5月2日、第一次補正予算及び東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律が成立、公布され、市町村が行う災害廃棄物の処理事業(県から事務委託を受ける場合を含む)は、特例的措置として、補助率の嵩上げを実施し、地方負担分の全額について、災害対策債により対処することとし、その元利償還金の100%について交付税措置がなされます(環境省HP
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2-6【倒壊建物の撤去】
地震や津波によって周辺の建物等が倒壊してしまいました。瓦礫が私の敷地に残ってしまっているのですが、勝手に撤去しても良いでしょうか。撤去費用は私が負担しなければいけませんか。動産の場合はどうでしょうか。
所有者の承諾なく撤去・処分した場合には不法行為責任(民法709条)に問われる可能性もありますので、原則として所有者の承諾を得るべきであると考えられます(Q2-5も参考にしてください)。
撤去費用については、民法上の物権的請求権の性質(行為請求権と捉えるか忍容請求権と捉えるか)をどのように解釈するかに関連するといわれています。裁判例の動向については、明確ではないものの、不可抗力の場合に相手方に費用負担させることには慎重な立場を取っていると一般的には解されています(「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」(新日本法規)325頁)。よって、地震や津波等の不可抗力によって瓦礫が残ってしまった場合、相手方に費用負担させるのは難しいと考えられます(公費負担についてはQ2-5を参考にしてください。)。
今回の地震における取扱いは「東北地方太平洋沖地震における損壊家屋等の撤去等に関する指針」(
倒壊して瓦礫状態になっている建物については、所有者等に連絡したり承諾を得ることなく撤去しても差し支えないことになっています。
貴金属その他の有価物及び金庫等については、一時保管し、所有者等が判明する場合には所有者等に連絡するよう努め、所有者等が引き渡しを求める場合には、引き渡す必要があります。引き渡すべき所有者等が明らかではない場合には、遺失物法によって処理する必要があるため、警察署に届け出る義務があります(遺失物法4条1項)。
自動車や船舶については、外形上から判断して、その効用をなさない状態にあると認められるものは撤去し、仮置場等に移動させて差し支えありません。所有者等が判明する場合には、所有者等に連絡するように努める必要があります(詳細は「東北地方太平洋沖地震により被災した自動車の処理について」を参考にしてください。
宮城県については、「被災自動車の処理方針について」も参考にしてみてください。
災害廃棄物に関する処理方針の概要については、「東日本大震災に係る災害廃棄物の処理指針(マスタープラン)について
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2-7【建築中の建物倒壊に伴う施工業者に対する請求】
建築中の家が地震で倒壊してしまいました。最初からやり直してもらうことはできるのでしょうか。
最初からやり直してもらった場合、別途工事代金を支払わなければいけないのでしょうか。
請負人は、仕事を完成させる義務を負っています。よって、請負契約書に特段の定めがなければ、建物が未完成である以上、土地の形状の著しい変形等がなく工期が延長しても社会通念上建物の建て直しが可能であれば、最初からやり直してもらうことができ、発注者はやり直し工事費用を負担する必要はありません。
もっとも、建設業法19条6号は、請負契約の当事者は、契約締結の際、「天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め」を書面により明らかにしなければならないと規定しており、契約書に別の定めがなされているのが通常です。民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款には、不可抗力によって、工事の出来形部分、工事仮設物、工事現場に搬入した工事材料、建築設備の危機又は施工用機器について損害が生じた場合、請負者が発注者にすみやかに通知し、発注者と請負者、監理者(監理業務を行う建築事務所等)が協議し、重大なものと認め、請負者が善良な管理者としての注意をしたものと認められるものは、発注者が損害を負担するという規定があります。当該工事請負契約書� �この約款を引用・準拠している場合には、発注者が途中までの工事代金を支払わなければならず、しかも最初からやり直してもらえば、その工事代金を別に支払わなければならないこともありえます。請負契約書の条項の確認が必要です。
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2-8【境界確定】
地震と津波によって隣家との境界が全く分からなくなってしまいました。どうすればよいでしょうか。
隣家との話し合いで解決しない場合には、筆界特定制度、境界確定訴訟又は所有権確認訴訟、調停、弁護士会ADR、土地家屋調査士ADRを利用することが考えられます。
筆界とは、一筆の土地とこれに隣接する他の土地との間で、登記時に境を構成するものとされた2以上の点及びこれらを結ぶ直線を言います(不動産登記法123条1号)。筆界特定は、当事者の申請に基づき、学識経験者(土地家屋調査士、弁護士、司法書士等)が筆界調査委員に指名されて必要な事実調査(測量・実地調査、関係者からの事実聴取、登記記録、地図の調査等)を行って意見書を提出し、当事者の意見陳述等を踏まえ、筆界特定登記官が、筆界を特定するものです。また、境界確定訴訟も提起することができ、筆界特定は、判決と抵触する範囲で効力を失います(不動産登記法148条)。裁判所は、筆界特定手続記録の送付を嘱託することができるので(不動産登記法147条)、筆界特定の結果は、境界を定め� �重要な証拠資料となります。
震災によって境界杭が移動し、土地の形状が変わっている等、容易に解決できないことも予想され、多額な測量費の負担も斟酌し、土地の価格によっては、境界杭の移動前後の間の土地(つまり紛争の土地)を買い取るという解決を検討したほうがよいケースもあります。
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2-9【不動産売買契約の処理】
地震が起きる前に不動産を購入していましたが、いまだ代金を支払っていない状態です。土地が液状化し、価値がかなり低下してしまったため、決めていたとおりの売買代金を支払いたくありません。どのようにすればよいですか。
代金を未払いとのことですので、不動産の引渡し前と考えられます。全国宅地建物取引業協会連合会の標準的な売買契約書には、引渡し前に、天災地変等の売主、買主のいずれの責にも帰すことのできない事由によって物件が滅失した場合には、買主は契約を解除でき、毀損したときは、売主は、修復して買主に引き渡すものとするが、修復が著しく困難又は過大な費用を要するときは、売主が売買契約を解除することができ、買主は毀損によって契約の目的を達することができないときは、この契約を解除できるという規定が存在しています。このような規定が存在すれば、買主は、毀損によって契約の目的を達することができないのであれば契約を解除し、支払い済みの手付金の返還を求めることになります。土地の液状化により� ��売主・買主間で合意した売買契約の目的(例えば転売目的や居住目的等)を達することができないということができれば、買主は契約を解除できるということができると思われます。
こうした規定が存在しない場合には、特定物売買の場合には、危険負担の債権者主義(民法534条)が適用され、目的物の滅失又は損傷の場合、債権者の負担に帰するとされ、買主は、約定どおりの売買代金を支払わなければならず、あるいは売買契約書で定められた違約金(支払い済みの手付金を充当する)を支払って、売買契約を解除せざるを得ないことになりますが、不動産売買においては、代金支払いと引渡し、登記が引き換えになっているのが通例で、引渡し、登記のときまで債権者主義をとるべきではないという見解も有力です。この見解によれば、売買代金を支払う義務がないと考えうることになります。
売主・買主間で売買契約を合意解約するか、価格の減額によって取引を維持できる場合には、売買代金額について再協議して解決することが多いと思われます。
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2-10【全壊建物の抵当権の帰趨】
私の所有している家が地震で全壊してしまいました。家には抵当権がついていたのですが、どうなるのでしょうか。
あなたは、より高い金利を受け入れなければならない理由
抵当権の付いている建物が全壊した以上、抵当権の目的物がなくなったことになるため、抵当権は消滅するのが原則です。抵当権の効力は崩壊後の木材等には及びません。
しかし、通常、地震で全壊した場合には、期限の利益を喪失する或いは増担保提供義務が生じるという特約が規定されていることが多いので注意が必要です(もっとも、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震の際には、特例措置が取られました。「災害対策マニュアル」(商事法務)86頁、「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」(新日本法規)229頁。今回の地震においても、弁護士会等により特例措置の実施を促す動きがあります。今後の動向に注意が必要です。)。
全壊か否か判断が難しい場合は注意が必要です。全壊していないのに勝手に取り壊してしまった場合、担保維持義務違反となり抵当権者から損害賠償請求(民法415条)される可能性もあります。
なお、地震保険に加入している場合には、保険金請求権に物上代位されてしまうこともあるため、注意が必要です(阪神・淡路大震災では、保険金が直接被災者に渡るような特例措置がありました。「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)116頁)。なお、地震保険についてはQ7-9【地震保険と質権】も参照してください。
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2-11【権利証の紛失】
津波で権利証が流されてしまいました。所有権を失ってしまうでしょうか。
権利証を再発行してもらえるのでしょうか。
土地を売りたいです。権利証がなくても登記は可能でしょうか。
権利証(登記済証・登記識別情報通知書含む)を紛失しても所有権を失うことはありません(法務省民事局平成23年3月29日付報道発表も参考にしてください
紛失した権利証を再発行することはできません。
権利証がなくても登記をすることは可能です。「事前通知制度」或いは司法書士や弁護士等による「本人確認情報の提供制度」を利用してください。もっとも、「事前通知制度」では、登記申請時点で本受付がなされてしまいます。同時履行ができないというような実務上の問題点がありますので注意が必要です(なお、平成17年3月7日より「保証書」方式が廃止されました。)。
また、不正な登記を予防する方法として、不正登記防止申出制度があります。この制度は、(申出から3か月以内に)第三者から登記が申請された場合には、登記申請がなされたことを通知してもらえる制度です。知らない間に登記されることを防止することができます。
なお、登記事項証明書等の交付請求(オンライン交付請求は除く。)に関する手数料を免除する特例が出ております(平成23年5月13日付「東日本大震災の被災者等に係る登記事項証明書等の交付についての手数料の特例に関する政令」。
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2-12【全壊していない分譲マンションの修理・再建手続】
分譲マンションの共用部分が壊れてしまいました。
マンションの住人だけでも100人以上いるのですが、どのような手続を経れば修理することができますか。修理に関する特別決議の結果に反対の場合、どうすれば良いでしょうか。
「滅失」に至らない「損壊」の場合には、総会の普通決議によって行うことができます(区分所有法18条)。普通決議は、区分所有者の頭数と議決権の各過半数で決します(区分所有法39条1項)。修繕費用は、全ての区分所有者が共用部分の割合に従って負担することになります(区分所有法19条)(なお、区分所有のマンションの共用部分に対する応急修理について1世帯当たり52万円の範囲内で国庫負担の対象となる可能性があります。(
建物価格の2分の1以下に相当する部分が「滅失」した場合には、区分所有者及び議決権の各過半数による復旧決議により修理することが可能です(区分所有法61条1項、3項、39条1項)。
建物価格の2分の1を超える部分が滅失した場合には、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の復旧決議により修理することが可能です(区分所有法61条1項、5項)。反対者には時価による買取請求権が認められています(区分所有法61条7項)。
マンションを建替えしたい場合には、区分所有者及び議決権各5分の4以上の多数による復旧決議により行うことができます(区分所有法62条1項)。反対者には買取請求権が認められていないため、時価による売渡請求が行使されることを待つしかありません(区分所有法63条4項)。マンションの専有部分について抵当権者や賃借人などが関わっている場合には、自由に取り壊しすることができないなど、さまざまな問題があるので注意が必要です「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」(新日本法規)54頁)。
なお、議決権の割合など一部の事項に限り、区分所有法と異なる規定が管理組合規約に定められている場合には、管理組合規約が優先するので注意が必要です(区分所有法30条)。
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2-13【分譲マンションが全壊してしまった場合の再建手続】
分譲マンションが全壊してしまった場合、マンションを建て直すにはどうしたらよいのでしょうか。
マンションが全壊してしまった場合には、建物が存在しなくなってしまったことになります。管理組合も消滅すると考えられます(民法682条)。要するに、敷地の共有関係だけが残ると考えられます。そのため、全員の同意がなければマンションを再建することはできないと考えるのが一般的です(民法251条、反対説については「地震に伴う法律問題」(商事法務)141頁参照)。
なお、阪神・淡路大震災後に「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」(いわゆる「被災マンション法」)が施行されましたが、今回の地震に被災マンション法が適用されないことが9月30日に決定しております(
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2-14【分譲マンションにおける水漏れトラブル】
マンションに住んでいます。地震によってパイプや水道管が破裂して水漏れしてしまったようです。下の階の住人から苦情がきているのですがどうすれば良いでしょうか。私が補修費用や損害賠償金を負担しないといけないでしょうか。共用部分から水漏れしたのか専有部分から水漏れしたのかによって違いはありますか。
民法709条または717条による損害賠償責任を負担する可能性があります。
震度5よりも大きい地震で壊れてしまった場合は、不可抗力として免責される可能性が高いです。そのような場合であっても、水漏れが発生していることを分かっていながら放置したため損害が生じてしまった場合には損害賠償責任を負う可能性があります。
なお、水道管や排水管自体は民法717条の工作物に当たりますが、建物内の水道管や排水管が民法717条の工作物に当たるか否かは裁判例が分かれています(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)121頁)。
専有部分の水漏れの場合に区分所有者が責任を負わなければならないのに対して、共用部分の場合は原則として区分所有者全員の責任になります。
一般的には、躯体と一体になっている部分が共用部分とされていることが多いようです(「災害対策マニュアル」(商事法務)152頁、なお、標準管理規約別表第2第2項においては、本管から各住戸メーターを含む部分までが共用部分とされています。)。
水道管等の水漏れ箇所が不明の場合には、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定されます(区分所有法9条)。
なお、実際に費用を支出する際には、損害保険を適用できるかどうかが重要な論点になります。約款を確認する必要があります。
また、保険契約における免責条項の効力について争われた裁判例にも注意する必要があります。例えば、東京都杉並区内(震度5強~5弱程度)のマンション漏水事故に関して平成23年10月23日東京地裁判決(以下「一審判決」といいます)は、「地震免責条項にいう地震とは、...戦争、噴火、津波、放射能汚染などと同じ程度において、巨大かつ異常な地震」などと判示した上で免責の効力を否定していました。しかし、平成24年3月19日東京高裁判決は、一審判決を取り消した上で、免責の効力を認めました。各紙報道によると、東京高裁は、「条項の文言上、地震をその強度や規模によって限定的に解釈することはできない」(平成24年3月19日付読売新聞)などと判示したとのことです。
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2-15【借家滅失と賃料支払義務】
借家が津波で流されてしまいました。賃料を支払い続けないといけないのでしょうか。地震で壊れてしまった場合はどうでしょうか。
借家が津波で流されてしまった場合、賃借物の目的物が「滅失」し、賃貸借の趣旨が達成できなくなるので、賃貸借契約は当然に終了するといわれています(最判昭42・6・22民集21・6・1468)。
賃貸借契約が終了する場合、賃貸人は使用収益させる義務がなくなり、賃借人は賃料支払義務を免れます。他方、一部が壊れたにすぎない場合には賃料支払義務が残ります。津波で流されてしまった場合には、明らかに「滅失」したといえるでしょうが、地震で壊れてしまった場合には「滅失」したといえるかどうか問題になることも多いでしょう。
そのため、建物が「滅失」したといえるかどうかが問題になります。
「滅失」についての判断基準は、大きく分けて(1)建物の損壊の程度と(2)経済的観点です。
(1)建物の損壊の程度は、賃貸借の目的となっている主要な部分が消失して賃貸借の趣旨が達成されない程度に達したかどうかにより判断されることになります。
(2)経済的な観点は、通常の費用で修復可能か否かにより判断されます。裁判上は双方の観点を考慮に入れて判断されているものが多いようで、事案に沿って個別的に判断されることになります。罹災のままでは風雨をしのぐべくもなく、倒壊の危険さえあり、完全修復には多額の費用を要し建物全部を取り壊し新築する方が経済的であるときは、当該建物は滅失したものとする判例があります(前掲最判昭42・6・22)。
なお、地震保険の場合、「全損」の基準は、「主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価の50%以上である損害、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上である損害」かどうかで判断します
(財務省ホームページ参照)。裁判上「滅失」とは言えない場合にも、保険会社が「全壊」と判断する可能性があることなどに注意が必要です。
※原発事故と賃料の関係については、Q10-5を参照してください。
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2-16【賃貸人からの明渡請求への対応(一部損壊の場合)】
外国為替取引をする方法
大家から退去・明渡しを要求されてしまいました。建物はそれほど壊れていないのでまだ使えると思うのですが、出ていかなければいけないでしょうか。
大家が修理したいので明渡してほしいと言っている場合はどうでしょうか。
明渡した場合、立退料を払ってもらえますか。
2-15で前述した通り、借家が「滅失」してしまった場合には、賃貸借契約は当然に終了します。そのため、明渡さなければなりません。基本的には立退料も支払ってもらえません。
逆に、借家が「滅失」に至っていない場合に明渡す必要はないのが原則です(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)17頁参照)。
もっとも、実際に物理的に全壊しているわけではない場合には、借家が「滅失」に該当するかどうかは微妙な判断になります。Q2-15で前述したとおり、当該建物の損傷の程度、修繕の費用、建物の耐用年数、老朽度及び家賃の額等も含めて総合的に判断しなければなりません。
大家が借家の修繕をする場合、賃借人には協力義務があるため、修繕工事の状況によっては一時的に退去しなければならなくなる可能性もあります(民法606条2項)。もっとも、賃貸借契約が終了しない限り、明渡す必要まではありません。
賃貸借契約期間終了の際に大家から更新拒絶をなされて明渡しを求められる可能性もあるでしょうが、大家からの更新拒絶には「正当の事由」が必要です(借地借家法28条、借家法1条の2)。また、期間の定めがない賃貸借契約の場合には、大家は「正当の事由」がない限り、中途解約して明渡しを求めることができません。「正当の事由」の判断は、建物の使用を必要とする事情、建物賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況、立退料支払の有無等によって総合的に決します。判断の上で、立退料支払の有無、金額の程度が非常に重要になりますので、立退料に関する交渉を検討しても良いでしょう。
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2-17【計画停電と賃料支払義務】
ビルのテナントに入っているお店を経営しています。幸いビルは無事だったのですが、計画停電の影響で電気が通じず商売になりません。このような場合も賃料を全額支払わなければならないのでしょうか。
賃借物の一部が賃借人の過失によらないで「滅失」したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができます(民法611条1項)。
しかし、計画停電によって地域全体の電気の供給が停止した場合には「滅失」にはあたらず、賃借人は賃料を支払わなければならないと一般的に解されています(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)24頁)。
よって、原則として賃料を支払わなければならないということになります。もっとも、例えば電気代が賃料の中に含まれている場合には、使用できなかった時間に相当する電気代相当額の減額が認められるべきと思われますので、賃料減額交渉ができないか契約書を十分に検討する必要があると思います。実際、交渉によって大家が賃料の減額に応じるというケースが散見されています。
なお、広域における計画停電(しかも停電が長期間継続的に行われる場合)という過去に想定されていなかった「経済事情の変動」があった以上、賃料減額請求権(借地借家法32条1項)の行使を検討することも可能です。
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2-18【引越しができない場合の賃料支払義務】
4月からの赴任地が被災地でした。引越しできなくなってしまったため住んでいないのですが、賃料を支払わないといけないでしょうか。賃料相当分を引越し業者に請求することはできるでしょうか。
賃料の支払義務については、借家の状況によります。
借家が使用可能である場合には賃貸人の義務を果たしていることになりますので、仮に引越しができないとしても、原則として賃料を支払わなければなりませんが、実際は、賃貸人と交渉し、賃貸借契約の開始時期を遅らせて、被災地に引越すことができるようになってから賃貸借契約を開始しているケースが多いと思われます。
また、原則として、賃料相当分を業者に請求することはできません。
地震や原発事故が原因で引越運送ができない場合には、不可抗力として業者を免責する条項に該当すると考えられるからです(標準引越運送約款23条6項参照)。
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2-19【敷金の返還】
借家が津波で流されてしまいました。或いは地震で全壊してしまいました。敷金は返してもらえますか。(不可抗力の際の)敷金不返還特約がある場合や敷引特約がある場合はどうなるのでしょうか。
2-15で前述した通り、借家が「滅失」してしまった場合には、賃貸借契約は当然に終了します。そのため、敷金返還を請求できます。
もっとも、実際には、敷金に関する特約があるかないかによって変わります。
特約において不可抗力で契約が終了した場合には敷金は返還しないとなっている場合はどうでしょうか。借家人保護の見地から、不可抗力の場合に敷金を返還しないという特約は無効と解されるケースも少なくありません(消費者契約法10条)。延焼の事例ですが、特約の効力を否定して保証金の返還請求権を認めた事例があります(大阪地裁昭52・11・29判事884・88)。
敷引特約の場合は注意が必要です。近時の最高裁において、敷引金の額が高額に過ぎるものである場合には、賃料が相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、消費者契約法10条により無効となるとした上で、「本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない」として敷引金の額が高額に過ぎるとは評価できず、有効とした判例があります(最高裁平23・3・24最高裁ホームページ)。事例判決ではあるものの敷引特約一般に大きな影響を与える可能性があるため、慎重に検討する必要があります。
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2-20【賃貸人に対する借家の補修請求】
借家が地震で一部壊れてしまいました。補修してもらいたいのですが、大家に対する補修請求はできますか。借家人が補修費用を負担しなければならないという特約がある場合には、補修費用を負担しなければなりませんか。
賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をなす義務を負っています(民法606条1項)。もっとも、「必要な」修繕でなければならないため、常に大家に修繕義務が生じるというわけではありません。
大家に修繕義務が生じるのは、賃借人の使用収益を妨げる程度の損壊がある場合です。具体的には、損壊の程度、賃借人が被る不利益、賃料の額、賃貸物の資産的価値などを総合考量して判断すると解されています(東京高判昭56・2・12判時1003・98参照)。特に、柱、屋根、壁及び躯体部分については、賃貸人に修繕義務が生じる可能性が高いです。
借家人が補修費用を負担しなければならないという特約がある場合には、原則として借家人が補修費用を負担しなければなりません。もっとも、消費者契約法10条などによって賃借人が保護される可能性は残ります。
裁判例にも、当該特約の趣旨を、何人も予想しなかった天災による大破損のときまで賃借人に修理義務を負わせるものではないと解釈して、賃借人を保護したものがいくつかあります(大判大10・9・26民録27・1627、大判昭15・3・6法律新聞4551・12)。
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2-21【賃貸人が借家の補修をしない場合】
借家が地震で一部壊れてしまいました。大家が補修しない場合、賃料減額してもらえますか。
大家が補修しない場合、借主が勝手に補修してしまっても良いのでしょうか。
借主が補修費用を支払った場合、家主に補修費用を請求できますか。補修費用を家賃と相殺できますか。
借家に使用不能の部分が生じている場合には、一部「滅失」したといえますから、民法611条に基づき賃料減額請求することも可能です。
大家が修繕義務を履行しないことによって賃借人に損害が生じている場合には、損害賠償請求の上、賃料請求権と相殺することも可能です(民法415条、505条)。
大家が修繕しない場合、賃貸借契約の目的に従った使用収益に必要な範囲内で、賃借人自ら修繕することが可能です。具体的には、老朽化した柱、梁の鉄柱による補強、屋根の葺替え、土台の入れ替えなどが可能です(東京高判昭56・9・22判時1021・106)。
大家が修繕義務を負っている部分について賃借人が修繕義務を履行した場合、修繕の際に遅滞なく通知することを条件として、直ちに大家に対して修繕費用を請求することができます(民法608条1項、615条)。賃料請求権と相殺することも可能です(民法505条)。
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2-22【賃貸人による貸家の補修】
貸家が地震で一部壊れてしまいました。補修費用が多額になってしまったのですが、賃料増額を求めることができますか。
家に訪問してきた業者に補修を頼んだのですが、相場の5倍の値段だったことがわかりました。解除することが可能ですか。
借地借家法32条1項に基づき判断されることになります。
原則として、補修費用が多額になったという理由だけで賃料を増額することはできません。もっとも、歴史的な天災など不可抗力の場合に大規模修繕をしたのであれば、ある程度の賃料増額もやむをえないという見解もあるようです(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)27頁)。
訪問してきた業者が悪徳業者だった場合、契約条件を明確にした書面の交付から8日以内はクーリングオフすることができる可能性があります(特定商取引法9条1項)。悪徳業者が訪問した日から8日を経過していても、書面の交付がなかったり、書面の記載が不十分であればクーリングオフは可能です。
仮にクーリングオフができない場合であっても、虚偽の事実を告げて修繕契約を締結した場合は、虚偽の事実を知ってから6か月以内であれば、特定商取引法9条の3、消費者契約法4条1項1号により契約を取り消すことができます。その他民法95条の錯誤無効や、同法96条1項の詐欺取消しを主張できる場合もあります。
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2-23【借家の再築請求】
借家が全壊してしまいました。
大家に対して建て直しを要求することができますか。
2-15で前述した通り、借家が「滅失」してしまった場合には、賃貸借契約は当然に終了します。そのため、大家に対して建て直しを要求することはできません。
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2-24【賃貸借契約の解除】
借家が一部壊れてしまいました。修理すれば住めますが、引越したいです。賃貸借契約を解除することはできますか。
1 解除について
地震によって借家が一部壊れてしまったというだけでは賃貸借契約を解除することはできないのが原則です。損壊の程度により、以下のように区別して考えられます。
(1)借家としての機能に重大な損傷がある場合
この場合、大家に損壊部分の修理を請求し、その修理が行われた場合には解除はできません。大家が必要な修理を行わない場合には契約を解除するか、又は、自ら修理を行い必要費として大家に支払いを請求することもできます。
(2)借家としての機能には問題がない場合
この場合は解除出来ないと考えられます。ただし、損壊により借家の使用収益に影響がある場合には、大家に対して修理を請求することができ、これに応じない場合には自ら修理をしてその費用の支払いを請求することができます。
2 解除することができない場合の解約について
契約書に解約申入れに関する条項がなく、借家期間の定めがある場合には、原則として解約することはできません。
解約申入れに関する条項がないものの借家期間の定めがない場合には、解約申入れの日から3か月経過後に賃貸借契約は終了します(民法617条1項)。3カ月分の賃料を支払って賃貸借契約を終了させることも可能です。
いずれの場合であっても、賃貸人と協議し、賃貸借契約を合意により解約することは可能です。
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2-25【罹災都市借地借家臨時処理法(総論)】
罹災都市借地借家臨時処理法は常に適用されるのですか。
罹災都市借地借家臨時処理法が適用される地区は法律及び政令によって定められることになっています(同法27条)。今回の地震においては、一旦は法務省が適用する方針を決めたとの新聞報道がなされた(平成23年3月15日各紙報道)ものの、9月30日、同法を適用しないことを政府が決定致しました(
日弁連では、平成22年10月、賃貸人に一方的に不利であるなどの理由から罹災都市借地借家臨時処理法の改正意見を提出しておりましたが(「罹災都市借地借家臨時処理法の改正に関する意見書」)、いまだ法改正はなされておりません。
そこで、平成23年5月26日、日弁連は、法改正なく東日本大震災の被災地に適用されないよう求める意見書を提出しておりました。このような批判が少なくなかったために、今回、適用が見送られたものと考えられます。
なお、平成23年10月1日、罹災都市借地借家臨時処理法の被災地への適用見送り方針等について、仙台弁護士会より会長談話が発表されています。
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2-26【借地上の建物が全壊した場合の借地契約の帰趨】
借地上に自分で家を建てていたのですが、全壊してしまいました。
借地契約は終了してしまうのでしょうか。
地主が行方不明なので,地主の承諾を取らずに建て直しても良いでしょうか。
再築禁止特約や増改築禁止特約がある場合も同様でしょうか。
建物が全壊したとしても土地が滅失したわけではありませんので、借地契約は終了しません。自然腐敗によるものではないため「朽廃」(借地法2条1項)にもあたらず、借地契約は終了しません。
もっとも、一時使用目的の借地権について、地震によって建物が滅失した場合に借地権は消滅するという特約を設けておくことは有効ですので、この場合には、借地契約が終了します(Q&A「災害時の法律実務ハンドブック」(新日本法規)90頁)。
また、借地人は、賃貸人の承諾なく、建物を再築することが可能です。
なお、再築禁止特約(借地の残存期間を超えて存続する建物の再築を禁止する特約)は原則として無効と解されているため、再築禁止特約があっても建物を再築することが可能です(最判昭33・1・23判時140・14参照)。
しかし、増改築禁止特約は原則として有効と解されていますが、万が一増改築禁止特約違反をしてしまった場合であっても、土地の有効利用の範囲内の再築(さらには緊急時でもある)であれば、特約違反による解除までは認められない可能性が高いです(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)7頁、最判昭41・4・21民集20・4・720参照)。
もっとも、増改築禁止特約がある場合には、賃貸人の承諾や承諾に代わる裁判所の許可を取ることを視野に入れた方が安全です(借地借家法17条2項)。
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2-27【借地上の建物が全壊した場合の再築】
借地上に自分で木造の家を建てていたのですが、全壊してしまいました。
再築建物をコンクリート造にしても良いでしょうか。
再築が制限されている地域があるというのは本当ですか。
借地契約の内容に、木造建物に限定する旨の条件が定められていれば、当然コンクリート造の建物を建築してはいけません。もっとも、コンクリート造に再築した場合であっても、必ずしも地主からの解除が認められるわけではありません。
借地契約の内容に、木造建物に限定する旨の条件が定められていない場合であっても、借地法下で当初の契約が締結されていた場合には非堅固建物所有を目的とする借地契約であると推定されますので(借地法3条)、従来の建物が木造であれば、賃貸人の異議を無視してコンクリート造の建物を建築することは許されません。
もっとも、借地法下で当初の契約が締結されていた場合にコンクリート造建物の再築を完了してしまうと、地主からの異議がなければ、再築後の堅固建物所有を目的とした借地契約になると解されています(借地法7条、借地借家法7条2項参照。「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」94頁、「地震に伴う法律問題」7頁等)。
東日本大震災においては、建築基準法84条1項2項に基づく被災市街地における建築制限が適用され、現行法上最長2ヶ月の5月11日まで延長されていました。
さらに、平成23年4月29日に公布・施行された「東日本大震災により甚大な被害を受けた市街地における建築制限の特例に関する法律」により、平成23年9月11日まで(特に必要があると認めるときは更に2か月を超えない範囲で延長できる)建築制限が適用されていました(同法1条1項、2項、3項)。また、7月1日当時、宮城県気仙沼市、名取市、東松島市、女川町、南三陸町、山元町及び石巻市(7月1日より山元町が追加されました。石巻市は,特定行政庁として独自に建築制限を定めています。)の各該当区域につき、9月11日まで建築制限が適用されていました。
その後、平成23年9月9日現在において、建築制限が再延長になった地域は次のとおりです。 気仙沼市、名取市、南三陸町、女川町については平成23年5月12日から同年11月10日までの間。
東松島市については、平成23年5月12日から同年10月31日までの間。
山元町については、平成23年7月1日から同年11月10日までの間。
石巻市の一部については、建築制限の指定の日から11月11日までの間。 (宮城県ホームページ、石巻市ホームページ)。
そのため、制限地域においては、新築、改築、増築及び移転ができません(制限地域においても、修繕、補修及びリフォームについては行うことができます)。
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2-28【借地権の対抗力】
借地上の建物が全壊してしまいました。その後、土地が第三者に売られてしまったようです。土地をそのまま借り続けることができるのでしょうか。罹災都市法の適用がない地域の場合、掲示をしておく必要があるでしょうか。
借地権の対抗力は、登記した建物が存在していることが要件です。そのため、建物が滅失してしまうと、登記が残っていても対抗力は消滅してしまいます。よって、土地をそのまま借り続けることができないのが原則です。
もっとも、借地上に看板などの掲示をしておけば、2年間は借地権を主張することができます(借地借家法10条2項)。看板の内容は、(1)建物を特定するための必要事項(最低でも所在と家屋番号の記載)(2)滅失の日付(3)建物を新たに建てる旨(4)借地権者の住所氏名が記載されていれば十分と解されています(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)10頁)。
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2-29【地代支払義務】
借地上の建物が全壊してしまいました。
地代の支払いを拒否することはできるでしょうか。
地割れなどが発生していて土地を利用できない場合は地代の支払いを拒否できますか。
借地上の建物が全壊した場合、ただちに借地契約の目的を達成することができないとはいえないので、地代の支払いを拒否することはできません。
地代の減額のためには、地震災害により経済事情の変動があったとして地代減額請求(借地借家法11条1項)を行うことの検討が必要です。
地割れが発生していて土地を一部利用できない状態になっている場合には、利用不能の割合に応じて地代減額請求ができます(民法611条1項)。残存部分で借地契約の目的を達成することができない場合には、借地契約を解除することもできます(民法611条2項)。
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2-30【借地契約の期間】
借地権の存続期間が1年しかありません。建物を再築しても、再築が完了したときには契約期間が終了して追い出されることになってしまいそうです。再築した方が良いでしょうか。
借地権の更新には、期間満了時に建物が存在しているかどうかが影響します。
契約期間満了前に再築が完了していれば、地主の更新拒絶に「正当事由」が認められない限り、借地権は更新されます(借地借家法5条及び6条、借地法4条及び6条)。
そのため、追い出されるということはありません。
このような場合には再築した方が良いでしょう。
なお、借地上の建物を再築した場合、借地期間が延長されることがあります(借地法7条、借地借家法7条)。
延長に関する要件は借地法と借地借家法で異なるので注意が必要です。具体的には、借地契約の設定が平成4年8月1日前である場合(借地法適用)には、地主が「遅滞なく」異議を述べないときに当然に法定更新となり借地権が延長され、従前の建物が全壊した日から30年(鉄骨造などの堅固な建物を建てた場合)又は20年(木造などの非堅固な建物を建てた場合)になるのに対して、平成4年8月1日後である場合(借地借家法)には、賃貸人が新築を承諾した場合には、借地期間は承諾後20年間存続し、借地人が賃貸人に対し、事前に残存期間を超えて存続すべき建物を新築する旨の通知をし、賃貸人がその通知から「2ヶ月以内」に異議を述べないときは、20年間、借地権が延長されることになるなどです。異議が述� �られた場合には、残存期間は元のままです。
定期借地権の場合には、借地期間への影響はありません。
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